ロボトミー手術を受けた少年の話

12歳でロボトミー手術を施された少年の話 ぼくの脳を返して。もちろん実話だ。著者は本人である。

ぼくの脳を返して~ロボトミー手術に翻弄されたある少年の物語~

世界大戦あたりから、アメリカでは精神を病む人が増え、精神病院はパンク寸前の状態が続いていた。患者のなかには、興奮する、暴れる、他人に危害を加える、といった危険人物もおり、それらの人々に対しては、薬物や電気ショックなど、とても人道的とは言えない処置がとられていた。

1940-50年代、ロボトミーの黄金時代が到来し、奇跡の治療法としてもてはやされた。人間の脳のうち、ちょうど額にあたる部分を、前頭葉と呼ぶ。前頭葉は、思考や運動を司る最高司令塔で、感情をコントロールする部分でもあり、人が人として生きるには極めて重要。その前頭葉を切除することで、患者の性質は穏やかになるという。

初代ロボトミー手術は、頭蓋骨切開もしくは左右2か所に穴をあけ、そこからメスを差し込んで前頭葉を切除するというもの。その後、ウォルター・フリーマンという米国の精神外科医により、眼窩(がんか。眼球が収まっている頭蓋骨の穴)の骨の間にアイスピックを突き刺し、グリグリこねくり回して前頭葉周辺の神経細胞を切り裂くという手法に改良?された。

この、より洗練された手法により、ロボトミーは診察室で10分もあればできる手軽な日帰り手術として、一挙に拡大。実際、フリーマン医師一人で、3,500人のロボトミー手術を施した。彼の患者のなかには、第35代アメリカ大統領J.F.ケネディの妹、ローズマリー・ケネディもいる。

外科医というのは、本質的に実験の好きな人種だ。医学用語では、これを「解剖」と呼ぶが、今も昔も、その実験台となる人間を集めることが彼らの最重要課題だ。人一倍この傾向が強かったフリーマンは、1人でも多くの人間をロボトミーすることに情熱を、いや、人生を賭けた。

その情熱の対象は、精神病患者だけでなく、まったく正常な健常者にも及んだ。ロボトミーは不可逆的。一旦手術を受ければ、人格は永久に変わる。そのため、手術前には入念な調査でもって手術の必要性を判断する必要があるが、フリーマンの手にかかれば、どんな人間も「精神異常」と判断される。本書の著者であるハワード少年もその犠牲者の一人だ。

ハワード少年は、複雑な家庭環境で育った。大柄で大雑把で奔放なハワードは、病的に神経質でヒステリックな義母と折り合いが悪かった。少年を嫌悪した義母は、彼を肉体的・精神的に虐待し、ついには「精神異常」と決めつけた。実際、何人もの医師へ相談したが、診断結果は「正常」。その結果に納得いかなかった義母は、ついにフリーマンにたどり着く。

フリーマン医師にとって、12歳の少年は願ってもない実験台。このチャンスを逃すはずはなく、ハワード少年はあれよあれよという間にロボトミーされてしまった。

全世界では、数十万の人がロボトミー手術を受けたとされるが、死亡率25パーセント、廃人率99.999…という恐るべき報告もある。そのなかで唯一、人間らしい感情をもって生きてこられたのが、このハワード少年だという。12歳で若かったことに加え、アイスピックの入った角度と深度が比較的浅かったのだろう。残る大半は、術中もしくは術後に死亡するか、廃人として生涯を終えた。

人間の脳は、その大半が未解明の状態で、病気やケガで脳を損傷した場合、将来どのような影響がでるか、医者にもわからない。ハワード少年のロボトミーのケースでは、脳は壊滅的なダメージを受けていたにも拘わらず、手術の時期が若かったために、周りの細胞がフォローするカタチで、比較的まともな人生を送ることができたという。

医学に関するドキュメンタリーは、奥が深く、読むという行為や時間の経過を忘れさせる。ロボトミー手術の大御所、ウォルター・フリーマンの生涯を追った ロボトミストと合わせて読めば、人間の異次元を垣間見れる。

ロボトミスト 3400回ロボトミー手術を行った医師の栄光と失墜





posted by ヒロミシュラン at 12:07 | Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする