なぜ人は自分を探しにインド放浪するのか

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人は、生きるために食べるのか、食べるために生きるのか?

「人は何のために生きるのか」の食べる版とも言うべき、この解のない哲学的問いに対し、世界には、2ヵ国だけ、明確な解答を持つ国がある。日本とフランスだ。両国に言わせれば、人は当然、食べるために生きている。この国には、食に命をかけた人々が数多く住んでおり、結果として、食のクオリティは世界でもずば抜けて高い。

しかし、その食の内容はもろに真逆。肉とバターを何時間も煮詰め、あらゆるものをいったん液化し再度固形化する、もしくはあらゆるものを包み込む、もはや原形をとどめぬほどに素材に手を加えるのがフランス料理なら、旬の魚と野菜を使い、昆布と鰹節で引いた出汁とわずかな調味料でほのかに味付けした、素材そのものの味とカタチを味わうのが日本料理。

どちらが体に良いかは、どんな馬鹿にでもわかるこの対照的なハイレベルの食の国を、徹底的に食べ歩いた食通王マイケル・ブース氏が、今回はあらゆる意味でハイレベルなインドに挑む。あのインドで、果たして氏はグルメレポートが書けるのか?

英国一家、インドで危機一髪

結論から先に言おう。さすがのマイケル・ブース氏も、今回は食べ歩きではなく、自分探しの旅に終わった。やはりインドは、ガンジーの国である。生きるとか食べるとかいう肉体のレベルは超越し、精神世界を真面目に議論し続けること軽く数千年の哲学の国である。

ミッドライフ・クライシス、いわゆる中年の危機で、うつ病とアルコール中毒と肥満に悩まされるマイケル・ブース氏。見かねた妻が、インドに3ヶ月、一家で暮らすことを提案する。これには条件があった。どう転んでも食べ歩きになってしまうマイケル氏主導ではなく、妻主導の旅ということで。

インドへ着いてしばらくは、マイケル氏はそれなりに食べ歩きを楽しんだ。暑さと不衛生さとでだいぶペースタウンはしたものの、インドの名物料理、カレーやタンドリーチキンを吐くまで、もとい、心ゆくまで嗜んだ。基本、どのメニューも激辛ではあるが、それなりのレストランで食べれば、インド料理には旨味があり、相当に美味いらしい。

しかし、ともすると食べ歩きで終わってしまいそうな様相が濃くなってくると、マイケル氏は妻から食べ歩きと飲酒の禁止を言い渡される。そして、妻が申し込んだヨガ教室で、毎日、朝からみっちりヨガに取り組むことに。破れば、妻は子供を連れて国に帰る。マイケル氏をひとりインドに残して。このあたり、何かのろけてね?と感じるのは私だけだろうか。

さて―――。

インド南部ケララ州。マイソールにあるヨガ教室は、ジャングルのど真ん中にあった。夜、トイレに行こうと照明をつけると、そこにはあまたの野生動物の姿が。それはまるで、アッテンボローのシリーズ番組そのものの世界だったという。私が想像するイメージは、少年ケニアの世界だ。死ぬ前にいっぺん見てみたい。

マイケル氏が通うヨガ教室のグル(サンスクリット語で「指導者」「教師」「尊敬すべき人物」の意味)は、ヴィネイ・クマール氏。

以下は、私もいつかインドに行って、この師にヨガを習うことがないとも限らないから、備忘録を兼ねた記述だ。同じようなことを考えている方は、ぜひ、参考にされたい。

http://www.pranavashya.com/

このヨガ教室では、主にヨガの姿勢(アーサナ)と呼吸法(プラーナーヤーマ)を学ぶ。

■アーサナ(ヨガのポーズ)
ヴィネイ氏のヨガは、80種のポーズからなる。それらのポーズを次から次へ、休まずに、常にゆっくりとした一定の速さで、果てしなく何度も繰り返す。

これにより、身体が柔軟に、しなやかになり、肉体に耐久性が生まれ、内臓がマッサージされ、血液中に酸素が満たされる。頭のてっぺんから足の爪先まで、すべての神経系に働きかけるつもりで、体のあらゆる部位を意識して行う。体の中心から、より遠くへ、遠くのほうへ伸ばすように。

■プラーナーヤーマ(呼吸法)
背骨の下の部分で呼吸するイメージで。深く、規則正しく呼吸することで、身体の隅々の細胞まで酸素を送り届け、二酸化炭素と一緒に老廃物を排出する。肺および血液を清め、神経を浄化する。

マイケル氏の言葉によれば、呼吸はすべて鼻を通して行うため(口ではない)これをやると鼻がぐじゅぐじゅでディッシュが手放せなくなるらしい。身体から「古い」空気を押し出すために、腹筋をふいごのように使い、体中を自分で浄化できるという。


ヨガのポーズと呼吸法をマスターすれば、自分のカラダとココロをコントロールできるようになる。自らの肉体と精神を完璧に制御できることがわかると、自信が生まれ、幸福感が高まるという。それがヨガの効果だ。

このヨガに、瞑想とアーユルベーダの知識と実践をものにすれば、インドの完成だ。この世に、もう恐れるものは何もない。

アーユルベーダはインドの伝統医療で、アーユルベーダ食事法と言えば、ハーブやスパイスをふんだんに使った野菜中心のベジタリアン食。それを、お腹が空いたときだけ、腹八分目以下くらいにちょろっと食べるのが通らしい。

フランス料理がメタボまっしぐらの超不健康早死に料理の極右だとすれば、インドのアーユルベーダは極左に位置する超ド健康長寿料理。和食は真ん中より左よりの中庸料理といったところか。フランス料理はいわずもがな、いくらカラダに良くても、菜っ葉だけ食べて生きるのは遠慮したい。いずれにしろ、日本料理が世界一であることは間違いない。

てことで、マイケル・ブース氏のインドレポートは、公平に言って、非常にクオリティが高い。本人も言うように、氏は非常に論理的、かつ合理的、イギリス人のくせに無宗教派であり、インドにも、ヨガにも、そのインドのヨガに夢中な欧米のヒッピー連中にも、どこにも組していない。全部ひっくるめて、実に冷静な、冷めた目で観察している。

自分をも客観視できる著者であるが故に、本書はインドの、しいてはヨガの、優れた解説書になっている。インド書としてはイチオシだ。




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