日本史の色男、イケメン義経のイタすぎる生涯

日本史上の人物で、絶対的なヒーローを3人あげよと言われれば、人それぞれ好みはあるが、おそらく、源義経、織田信長、坂本竜馬だろう。この3人のサムライを嫌いな日本人は、たぶん滅多にいない。3人に共通する特徴は、イケメン、強い、女性にもてる(母性本能をくすぐる)だ。

そして3人とも、若くして死んでいる。義経は兄の頼朝に追われ、岩手県平泉で自害。信長は明智光秀の謀反により本能寺で自害。竜馬は(おそらく)見廻組の近江屋襲撃で暗殺。このようにして、日本を代表するイケメンたちは、イケメンのイメージのままに、この世を去った。

ヒーローの条件として、真っ先に挙げられるのが見た目だ。どれほど政治的技巧に長けていても、家康や秀吉のように見た目がタヌキや猿のようでは話にならない。武将としての機能喪失後もくたばらず、周囲に老害を撒き散らし、挙句の果て、取り巻きの連中から「早く死ね、クソじじい」などと疎んじられるほど長生きしてはいけない。

3大ヒーローのうち、信長や竜馬は多くの小説や映像になっており、好奇心を満たす材料に不自由はしないだろう。しかし義経は、遥か鎌倉時代に生きた人物であり、あまり取り上げられていない。源氏平氏を描いた文献など、源氏物語くらいしかないのではないか。さすがにあれは読みたくないので、義経については未知のままでここまできたが、先日やっと義経を描いた小説に出会った。

新装版 義経 (上)
新装版 義経 (下)

なんと、あの司馬遼太郎ものだ。しかし、やはり参考文献が少なすぎるのか、さすがの司馬氏でも、いまいち深みに欠ける。登場人物の思想や行動原理が、単純で幼稚。言ってみれば、彼の国が、証拠隠滅のため電車を埋めちゃった、くらいな思考レベルなのだ。

ともすると孫悟空や水滸伝のようなパターンに陥りそうな平安時代・鎌倉時代。しかしそこは司馬遼太郎、オカルトやファンタジーには逃げない。宇治川、一ノ谷、鵯越、壇ノ浦の戦いなど、義経がその天才ぶりを天下に示した見せ所は、きちんとおさえている。

一方で、あまりにも現実感を重視したため、武蔵坊弁慶、静御前、木曽義仲、源頼朝といった、お馴染みのスターキャラは地味目。弁慶などほとんど出番なし、静御前も最後のとこでちょこ。せめてこの二人くらいはもっと著者の想像を膨らませ、義経との掛け合いシーンを入れるくらいのサービス心はほしかった。

さて、源氏三兄弟の特徴だが、頼朝は恐ろしく頭が大きく、胴が長く、手足が短いブ男。戦には弱いが、政治的感覚は鋭い。現代なら確実に会社役員まで昇っていく、細かいことに小うるさい面倒くさいタイプの人間だ。義仲は気のいい田舎っぺ。義経は、小さな顔、白い肌、華奢なつくりの小男。顔の特徴は平面的で反っ歯というから、今的なイケメンではなさそう。

義経というのは、バカと天才は紙一重を地でいった人のようだ。戦はめっぽう強い。強いといっても、美少女のような小男だから腕力はない。ただ、戦略を立てるのが上手く、発想が斬新で、直感も効く。戦に関して言えば、義経は間違いなく天才の素質をもっている。

しかし戦場以外の場所では、信じられないほどに鈍感。押したり引いたり、立てにしたり横にしたりという、面倒くさいことは一切やらない、というか、そういうものがあることすら、知らない。本能のままに行動。率直すぎというか、純粋すぎというか、その点では、多少、現在のトランプ米大統領に通じるものがあるかも知れない。

義経は戦に強く、見た目が可憐だから、京の庶民の間では大人気。もし彼が、その辺にいるただのぶ男だったら、見向きもされなかっただろう。そいうところが、頼朝の癇に障るのだが、そのことすら気づかず、一方的に頼朝を慕う義経。人として、この埋められないギャップを感じた時の頼朝の絶望感を、義経は一生理解できないだろう。

イケメンであればあるほど、戦で勝てば勝つほど、兄の頼朝に疎まれ、終いには殺されてしまった悲劇のヒーロー、義経。頭がでかく、胴長短足で、戦にめっぽう弱い、頼朝よ。君はどんだけ情けない男なんだ。恥を知れ。

1日1日と寒さが厳しくなる、秋から暮れにかけてのこの時期。暖かい室内にいてコタツに入り、リーチの届く範囲にみかんや煎餅を盛った皿をおき、緑茶かほうじ茶をすすりながら、歴史小説を読む。昭和の風景。読書の秋。

今どきの若者に、この風流がわかるだろうか。



posted by ヒロミシュラン at 12:08 | Comment(0) | 心に残る小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする