20世紀のサバゲー

ここに2つの冒険記がある。

エンデュアランス号漂流記
脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち

今風に言うと、サバゲー。技術が今ほど進歩していなかった20世紀のサバゲーは、スケールが違った。発想が地球規模。地球という自然を相手に、人間というちっぽけな存在がどこまで健闘できるか。この2つのドキュメンタリーは、偉業すぎて、本当にあった話とは思えない。

エンデュランス号漂流は、南極大陸を犬橇で横断すべく同じ船に乗った冒険者たちが、南極大陸に到達する前の段階で遭難した話。北極より寒いといわれる南極では、真冬の気温は、普通に氷点下40度くらい。寒い時にはマイナス90度くらいまでいくこともあるという。

そんな厳しい環境のなかでも、船という人工の建造物に守られていた間は、彼らには団欒があった。外では嵐が吹き荒れていても、分厚い板を1枚隔てた船内は暖かく、温かいコーヒーが飲め、温かい食事がとれた。本を読み、ゲームを楽しんだ。

しかし自然は無慈悲だった。一見穏やかに見えた南極の海は、そのまま氷ついた。流氷に閉じ込められた船は、身動きの取れないまま数ヵ月を経る。ようやく動き始めた流氷は、船を四方から容赦なく押し潰し、やがて船は沈没。

彼らの本当のサバゲーは、ここから始まる。

命の綱であった船が沈没し、南極の海に放り出された彼らは、流氷を住み家とした。もはや、彼らを外気から隔てるものは、防寒着と寝袋だけ。吹きっさらしの氷上で眠り、舵取りもできず、男たちの運命は、流氷とともに南極の海を流されるままだった。

彼らが食料としたのは、南極に生息するアザラシやペンギン。素手で捕まえては、その肉を食らう。血を飲む。夏の間はまだいいが、冬はヤバい。寒いだけでなく、食糧となる獲物もいなくなるから、寒さと飢えのダブルパンチだ。どう考えても未来はない。

そんな絶体絶命の状態のなかでも、同じ船に乗り合わせた乗組員たちは、あきらめることなく、皆で力を合わせ、真冬の南極を生き延びる。こんな過酷な状況でも、生きる方法を次々に考え出す彼らの精神力が、前向き過ぎる思考回路が、信じられない。

2つ目のサバゲーは、脱走記。

第二次世界大戦中にロシア軍に捕まり、シベリアの強制労働キャンプに送られた捕虜のうち7人が、遥々インドまで脱走したという話。バイカル湖のもっと北のシベリアの果てから、モンゴル草原、中国のゴビ砂漠を縦断し、チベット・ヒマラヤ山脈を越え、インドへ。距離にして、実に6,500km。

ありえん。

シベリアやヒマラヤの寒さも考えただけで死にそうだが、彼らが本当に死に直面したのは灼熱のゴビ砂漠。実際、2人くらいがここで命を落とした。人間は、寒さより暑さに弱いらしい。いや、気温というより、生存のカギは水の存在だ。水のないところでは、人間は2日と生きられない。

ということで、普通に氷点下20度にもなる南極や北極で、凍傷にもかからず生き延びられたこと自体が信じ難いが、この2冊は、この地球スケールのサバゲーでサーバイブした著者が晩年になって書き記した回顧録、本当にあった話だ。いま流行りの文書偽造や書き換えなどは行っていない。

人間の不屈の精神を実感できる、文字通りの力作である。


posted by ヒロミシュラン at 12:03 | Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする